ゾル−ゲル法による機能性薄膜の作製

pH感応性シリカゲル薄膜  超撥水性薄膜

ゾル−ゲル法とは

ゾル−ゲル法とは、湿式のアモルファス材料作製方法のひとつで、アルコールのヒドロキシ基の水素を金属で置換した化合物である金属アルコキシドを原料とし、溶液中で加水分解・縮従業することにより、シリカの微粒子が分散したコロイド溶液であるゾルの状態を経て、ゼリー状固体であるゲルを得た後に、これを熱処理などにより揮発性成分を取り除いた乾燥ゲル、さらに加熱・焼成することで多結晶体やガラス・アモルファスを得る方法です。この方法は、溶液から材料を得るため、材料の高い組成均質性を得られること、出発原料として液体の試薬を用いるため高純度の材料を得られやすいこと、ゾルの状態を経るため形状の制御が容易であること、一般的な溶融法などに比べてより低い温度で材料が得られること、それに付随して有機−無機ハイブリッド材料の作製が可能であること、などの特徴を有します。

pH感応性シリカゲル薄膜の作製

浸漬する溶液や様々な気体に反応し、そのpHによって色が変化する薄膜

pH感応性シリカゲル薄膜の作製

ゾル−ゲル法を用いることで、比較的低温での熱処理により、シリカゲルやガラスなどを得ることができますが、特に基板表面に薄い膜を形成することで、その表面の物性を大きく変化させる薄膜を得られることが大きな特徴のひとつになります。また、溶液中の反応によりゲルが得られることから、その溶液に様々な物質を溶解させておくことで、シリカゲル骨格の中に有機物を閉じ込めることも可能となります。右図は、pH指示薬であるブロモクレゾールグリーンをシリカゲル薄膜中に閉じ込めた薄膜の写真ですが、浸す溶液のpHにより、その色調が変化し、pH感応性を有することがわかります。この薄膜は、リトマス紙やpH万能試験紙とは異なり、ムービーで示したとおり何度でも使用することができ、10年以上の長期にわたってその特性が変化しないことから、小学校から高等学校における様々な実験において、pHを調べる教具としての応用が可能となります。また、基板としてPETシートなどを用いることができますので取扱が容易でかつ安全性も高いため、小学校において児童に自由に使用させることで、様々な溶液の酸性・アルカリ性の性質を調べさせることができます。さらに、醤油やソースといった非常に濃い色を持つ溶液では、試験紙を用いた場合には溶液の色のためにpHの判別が極めて困難になりますが、このシートには極めて高濃度の指示薬が含まれているため、着色した溶液のpHを判別することも可能となります。

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超撥水性シリカゲル薄膜の作製

接触角が160°以上の超撥水性を示す薄膜の作製

超撥水性シリカゲル薄膜の作製

ゾル−ゲル法を用いると、ガラスやPETなどの基板上に疎水性の大きい薄膜を作製することができます。このような薄膜は、撥水性を示すことになります。例えば、撥水性を示す典型的な物質であるテフロン上に水滴を落とした場合、はじかれた水滴が作る接触角は110°となり、スライムのような形を取ります。さらに撥水性を高めると接触角が大きくなり、最終的には160°以上で水滴は球になります。このような極めて高い撥水性を「超撥水性」と呼びます。ゾル−ゲル法では、有機−無機ハイブリッド材料を容易に作製することができ、特に、高い疎水性を持つアルコキシドを用いることで撥水性を高めることができます。ただし、そのまま平滑な薄膜を作っただけでは、超撥水性を示すことはありません。超撥水性を発言させるためには、作製方法を工夫することで表面に極めて微細な凹凸構造を形成することが不可欠になります。実際に超撥水性を示す薄膜の表面を電子顕微鏡を用いて25000倍に拡大してみると、その表面には0.1ミクロン以下の極めて微細な粒子が凝集した凹凸構造があることがわかります。この凹凸構造が、蓮や里芋の葉と同じように水をはじく効果を高めており、その結果、水滴が球状になるほどの超撥水性を占めるようになるわけです。

超撥水性を示す薄膜を用いると、普段見ることがないような不思議な現象を目にすることができます。例えば、右のビデオは超撥水性薄膜を作製した鏡の上に水滴を落としたものですが、水滴は鏡に一切付着することなく、弾かれてしまいます。この様子を後半のスロー再生で確認すると、鏡の表面に当たった水滴が、まるでボールのようにまん丸になり鏡を転がり落ちていることがわかります。

このムービーは、超撥水性薄膜の上に水滴を落とした際の1200fpsの動画です。上から落ちてきた水滴が、超撥水性薄膜の表面で完全に弾かれるため、変形した後にバウンドしてスライムのような形になり、運動量が大きいためにその先端がちぎれていくつかの小さな水滴になります。再度、落下した大きな水滴は、バウンドと変形を繰り返しますが、小さな水滴はまるでボールのように薄膜表面でバウンドしています。このように、超撥水性という非常に極端な性質を持たせることで、従来は無重力状態でないと作り出すことが難しかった水滴の運動を、簡単に観察することができるようになります。

このムービーは、超撥水性薄膜を卵の表面に作製したものを、水の中につけている様子を撮影したものです。水に浸す前には、卵にはなんら変わった様子はありませんが、水に入ったとたん、まるで透き通っているかのような卵に変化します。しかし、水から取り出すと元の卵に戻ってしまいます。これは、超撥水性薄膜が水に入る際に、水と接触するよりも空気と接触する方がエネルギー的に安定になるため、卵の表面に薄い空気の層を作るために起きる現象です。水中の薄い空気の層と水との界面では、いわゆる全反射が起きるため、さらに卵の透明感が増すことになります。