吉岡 秀文(教授)


生物学担当

専門分野

分子生物学 生化学 「生殖腺,及び脳の性分化の機構」

大学院で指導する研究内容

仮説を実験的に検証する楽しさと産みのくるしさを味わおうとする人ならだれでもいいです。生命現象を遺伝子レベルで解明しようというアプローチであれば、基本的にはなんでも可能です。ただ限られた時間内である程度の成果を出す必要はあります。世界中でだれも知らないことを切り開いていく勇気と努力と根気が必要です。
学部で指導する研究内容

次世代に「知」を継承するためには、初等教育に携わる先生自身がサイエンスをする楽しさを本当に判っていることが必要だと思います。教科書に書いてあることがどのような努力の積み重ねによってなされてきたのかを本当に自分の目で実感しようと思う人、来たれ。

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1 生殖腺の性分化機構
吉岡秀文(兵庫教育大学 自然系 生物)
〔目的〕 生殖腺は主に中間中胚葉に由来する組織であることが知られている。中間中胚葉からは当初,生殖隆起と中腎,後腎などが形成されるが,後に生殖隆起は生殖腺へ,中腎と後腎は各々付属生殖器官と腎臓へと分化する。この過程で性的に未分化な生殖隆起の形態と機能には「性」の分化が現れ,雌雄生殖腺が形成されるのである。生殖腺で生合成される性ステロイドホルモンが体全体に認められる2次的性の誘導と調節に不可欠であることを考慮すると,生殖腺の性決定が動物個体の「性」を決定していると理解することができる。従って生殖腺の性分化の過程を解明することが「性」の総合的な理解には不可欠であると言える。本研究では「中間中胚葉」から未分化性腺への分化過程と未分化性腺から雌雄生殖腺の分化過程にわけて分子レベルで明らかにすることを目的とする。
〔方法〕 遺伝子の発現様式をジゴキシゲニンでラベルしたRNAプローブを用いwhole-mount in situ hybridization 法により解析した。各種の細胞増殖因子を組み込んだレトロウイルスベクターを細胞に形質転換し、その細胞を外科的にニワトリ胚に移植することで、遺伝子の異所性発現実験を行った。
〔成果〕 1)中間中胚葉から中腎細管の形成におけるFGFシグナルとWntシグナルの関与
これまで、後腎形成メカニズムは器官培養系を用いて比較的よく研究されてきている。それに対して中腎はあまり研究対象となっていない。「中間中胚葉」から未分化性腺への分化過程においては、まずst10から頭尾軸にそって体節の形成と同調して、腎管が伸びてきたあと、st12において、体節13から16番目のレベルの中腎予定領域の中間中胚葉にFgf8が発現し、st15ではFgf8と同じ領域の中腎中胚葉にWnt4が発現する。発生がさらに進み、st18ではFgf8 とWnt4は中腎細管のそれぞれ特異的な部域に分化している。st21から中間中胚葉由来の中腎中胚葉にFgf9が発現しはじめる。ニワトリ中腎では、次に述べるように、Fgf9が生殖腺の分化を誘導するシグナルとして働くことを示した。発生が進むとFgf9が発現している領域は中腎細管と融合しネフロトームを形成する。st11-st13の中腎中胚葉にFgf8を コードするレトロウイルス産生細胞を移植すると、中腎中胚葉における Wnt4、Ad4BP/SF-1の発現領域が中軸方向に拡がった。また同様にWnt4の異所性発現により,中腎中胚葉におけるAd4BP/SF-1の発現領域が中軸方向に拡がった。この結果、FGFシグナルとWntシグナルは副腎・生殖腺原基を誘導するシグナルであることが示唆された。
2)生殖隆起を誘導するシグナル因子としてのFgf9
 st18において中腎細管に発現しているFgf8, Wnt4に隣接した中腎中胚葉にAd4BP/SF-1が発現し始める。次に、Dmrt-1を同定して、その発現を調べた。Dmrt-1はショウジョウバエと線虫で性分化に関与する転写因子のニワトリ相同遺伝子である。この遺伝子はst21でFgf9の発現する領域と隣接した中腎中胚葉に発現し始めた。この部域はAd4BP/SF-1 発現領域の腹側の腹部側のごく一部と重なっていた。発生が進むとAd4BP/SF-1発現領域は背側の領域と腹側の領域に分かれていき、Dmrt-1はこの腹側の領域と一致した。このことは、ニワトリ胚でも副腎・性腺原基から、それぞれ背側と腹側の部域に別れていき、それぞれから副腎と生殖腺が形成されていくことを示している。さらに、st21でネフロトームの先端部分の細胞に発現するFGF9蛋白は生殖腺の形成を誘導するシグナルとしてニワトリ胚において働いていると結論した。理由として第一に正常胚における発現は時間的に、空間的に生殖腺に特異的な遺伝子マーカーであるAd4BP/SF-1,cDmrt-1 の発現に密接にリンクしていた。第二にFgf9の異所性発現により、生殖腺の遺伝子マーカーであるAd4BP/SF-1,cDmrt-1,AMH が誘導された。第三に、異所性に形成された生殖腺の周りにはVASA抗原陽性の始原生殖細胞が移動してきた。第四に、FGF9シグナルを特異的に阻害するように、FGFレセプター阻害剤であるSU5402を染み込ませたビーズを3日胚の体腔上皮側から移植すると腹側のAd4BP/SF-1 発現のみが ならびに cDmrt-1の生殖腺における発現が阻害された。
〔考察及び展望〕 
  生殖腺は前腎、後腎には決して形成されずに中腎の腹側に形成されることからも、それらの形成には特異的な機構があるはずである。マウス中腎は出生時には退縮するのに対して、ニワトリ胚では成長を続けている。ニワトリ胚を用いたこれらの実験は、生殖原基の形成に中腎からのシグナル因子の関与を初めて示したものである。また生殖腺の初期形成時にレチノイン酸濃度が上昇することが、それぞれレチノイン酸の合成酵素Raldh2、分解酵素Cyp26の発現様式から予想される。この両者の発現様式は雌雄と左右で異なっており、生殖腺の皮質と髄質でも異なっている。ニワトリ性腺は右の卵巣が萎縮することが生物学的事実として知られている。この現象にレチノイン酸シグナルが関与している可能性を検討したい。RA bead, RA antagonist beadの移植により、Ad4BP/SF-1をはじめとした生殖腺に発現する遺伝子の発現への影響を調べてゆきたい。 
  さらに、未分化な生殖原基が性分化していく過程での遺伝子カスケードの解析系として、マウス生殖腺の器官培養系は報告されている。それを基にしてニワトリ生殖腺の器官培養系も確立できた。両者の系をもちいて、生殖腺の形成に重要であることが示唆されている転写因子Ad4BP/SF-1、さらには生殖原基に発現しているWnt-4を,マウスとニワトリ生殖原基にそれぞれ強制発現させることで,これらの因子の機能を調べる。また我々はレチノイン酸が生殖腺の分化に影響を与えることを確認しており,レチノイン酸ビーズ移植実験も行う。これらの処理の後に性特異的マーカー遺伝子群の発現変化、性腺の形態変化を解析する。哺乳動物と鳥類での性分化機構の共通性と特異性の一端を解明できると考える。