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Laboratory of Analytical Chemistry
of Hyogo University of Teacher Education





課題: 環境教育のための簡易分析法の開発と酸性雨の現状調査, データベース作成,及び,教育実践案の考案

研究結果:

1. 図1に示したように,総合的な学習では,自然・生態系についての理解と,自然の中で生活する人間と社会活動との関わりについて,考えさせることが重要です.身近な例として,酸性雨を上げることができます.酸性雨は社会科学と自然科学の接点にある問題ということができます.このような環境教育をスムーズに進めるためには,まず,最小限の理科の基本概念を設定し,それを体験的に学習させることが必要です.我々は,このような基本概念として,物質量・モルの理解,物質に酸やアルカリなどの個性があること,が重要であると考えます.また,体験を通した学習をさせるためには,子ども達が,実際の酸性雨を調査・分析できるような,簡易な道具の開発が必要であると考えました.今回,簡易pHメータ,簡易導電率計,簡易比濁計の利用について述べます.また, 鳥取県と兵庫県の瀬戸内海側では地形も気象も違うように,異なる地域で生活する子供達にとって,別の地域の自然環境を想像することは難しいことですから,小・中・高等学校の現職教員のネットワークを用いて,日本の複数箇所で同時に酸性雨の調査を行い,環境教育の実践案を考えて見ました.

2. 図2に,今回,ネットワークに参加していただいた地域,学校を示しました.特に,鳥取県の気高中学校の岡田先生と,神戸市西須磨小学校の長尾先生には,1年に渡って,図3に示した3つの地域での酸性雨の精密な調査をしていただきました.

3. 図4は,1998年7月から,1999年6月にかけて,鳥取地区と,神戸・社地区で調べた雨水の平均組成を示したものですが,この図から明らかなように,日本海側の鳥取では,ナトリウムイオンや塩化物イオンが多く,神戸・社地区では硝酸イオン,硫酸イオン,カルシウムイオンの寄与が大きくなっています.これらのイオンには特徴があって,図5に示したように,硫酸イオンや硝酸イオンは雨水を酸性化するイオンです.また,硫酸イオンが中国大陸からの越境汚染が起源であるのに対して,硝酸イオンは降水のある地域内に発生源があるというように,イオンによって特徴や個性があります.そこで,これらのイオンを別々に分けて観察できれば,越境汚染の影響,気象との関係など,子ども達の関心を多方面に拡張してゆくことができます.

4. ここで,降水中の幾つかのイオンについて,季節的変化や場所による変化をもう少し詳しく見ることにしましょう.図6は,降水中の水素イオン濃度の季節による違いを,鳥取地区,社地区,神戸地区で比較したものです.個々の点が一回の降水試料に対応しています.鳥取の場合,冬の雨でpHが低いものが多い事がわかります.一方,神戸の場合,9月から10月の雨でpHが低いように思われます.社はその中間になります.図7は,1998年8月と,1999年2月の場合に,水素イオンの沈着量(濃度x降水量)の場所による違いを,瀬戸内海に近い神戸地区から,日本海に近い鳥取地区まで横に並べて比較したものです.夏は南に行くほど,冬は北に行くほど,水素イオンの沈着量が増えていることがわかります.

5. ここで,海塩起源のナトリウムイオンと塩化物イオンの沈着量の場所による違いを比較したのが,図8です.夏は,南北両方向で数値に大きな違いはありませんが,海岸線に近付くほど,沈着量が増加することがわかります.一方,冬には,鳥取地区で沈着量が非常に大きくなります.図の縦軸のスケールが違う(右側)ことに注意してください.

6. 鳥取の水素イオンの沈着量が冬に大きくなったのは,硫酸としてもたらされたものと考えられます.そこで,図9に,1998年8月と1999年2月の降水試料について,非海塩起源の硫酸イオンの濃度と沈着量の場所の違いを示しました.たしかに,沈着量が,冬の降水の場合に,鳥取地区で大きくなっていることがわかります.これは,冬季の季節風によって中国大陸から硫酸が越境汚染されているためと考えられます.

7. このように,酸性雨の調査は,さまざまな学習の動機づけに使える題材をたくさんもっているのですが,それを観察する道具が高価では,子ども達に使わせることができません.最近,図10に示したように,コンパクトで,かつ,2万円程度のpHメータや導電率計が手に入るようになり,使いやすくなってきました.

8. ところで,酸性雨と言いますが,pHはそれほど低くなくても,たくさんの溶存イオンを含んで汚染されている雨があります.特に,都会部で降る雨は,酸性の汚染物質とアルカリ性の汚染物質が雨水の中で中和しているため,pHがそれほど低くないのに,たくさんの溶存イオンを含んでいます.そこで,雨水の汚染総量の目安として,雨水中の溶存イオン濃度の総量を考え,これを,電気伝導度 EC の実測値とpHの実測値から推定する方法を考えました.詳細を図11に示しました.この(6)式や(7)式を使って,イオン総量を簡単に推定できるようになりました.

9. 図12は,横軸にイオンクロマトグラフという個々のイオンの濃度を精度よく測定する装置を用いて測定したイオン濃度の和を示したもので,一方,縦軸は,電導度とpHから先ほどの式で得られた総イオン濃度を示したものです.pH領域によらず,非常に良い,1:1の関係が得られていることがわかります.すなわち,雨水中のイオン総量が,高価な装置で測定することなく,簡単にpHの値と電導度の値から求めることができたことになります.

10. しかし,塩化物イオンが海からの海塩起源物質の代表,硫酸イオンが中国からの越境汚染物質の代表というように,個々のイオンには,それぞれの顔があります.それらを別々に測定できれば,より多くの情報が得られます.しかし,さきほど述べたイオンクロマトグラフのような装置は100万円以上もします.そこで,図13に示したような簡単は比濁計を利用することを考えました.この比濁計は,ホームセンターなどで売っている塩ビパイプと,豆電球,光電池を組み合わせて作ることができ,せいぜい1000円ぐらいでできます.

11. 試料溶液に適当な薬品を加えて濁らせ,光電池の出力の変化から,試料溶液中のイオン濃度を推定しようというものです.いろいろ検討した結果,これらのイオンについて,図14に示したように,これ位の濃度まで測定できることがわかりました.

12. たとえば,塩化物イオンの場合,図12に示したように,硝酸銀溶液を加えると,塩化銀の沈殿が生じます.その濁りから塩化物イオン濃度が推定できます.図15は,この手順を用いた時の検量線です.約5ppm以上なら測定できることがわかります.

13. 図16は,実際の鳥取地区で採集された雨水に使ってみた場合です.横軸は,イオンクロマトグラフ装置で測定した値を用いて頻度分布で表わしていますが,この青い棒グラフの試料に対して,先ほどの比濁計で十分に測定が可能でした.冬の季節風の強い時に,日本海から海飛沫とともに多量の塩化物イオンが輸送されていることがわかります.

14. これらの工夫や考案を踏まえて,教員ネットの各学校で,教育実践をしてもらいました.図17は,鳥取の気高中学校で課外活動の中でやってもらった結果をまとめたものです.生徒から,『水に溶けている見えないものをどうやって調べるのか,実際やってみたかった』とか,『雨は水道水よりきたないんだと思っていたけど,調べてくらべてみると,雨の方が入っているものが少なくてびっくりしました』というような感想が述べられました.

15. また,図18は,その他の教員ネットの学校で行った結果で,『自分の町がきれいだから酸性雨は降らないと思っていた』,『生徒が自分でもってきた試料を使ったので,測定値がすべて異なり,自分の身近な環境を自分で考えさせるきっかけとなった』というように,教科書を読んだだけでは得られない体験が得られ,その生徒の居住する地域への積極的な関心を得ることができました.さらに,今後,子供達の反応について調べていきたいと思います.



Last updated at October 1, 2000