酸性雨について

  • 降水中の汚染物質
    酸性雨とは,大気中の汚染物質によって酸性化した降水をいう.大気中には360 ppm 程度の炭酸ガスが存在する.この炭酸ガスと平衡になった純水のpHは5.6であり, 現在,世界中で見られるpH4 台の雨は,炭酸ガスの影響だけでは説明できない.降水を酸性にする主要物質は硫酸と硝酸であり,化石燃料の燃焼によって生じた硫黄酸化物 SO2や窒素酸化物 NOx が光化学反応を受けて生成したものである.一方,pHが7付近であるからといってその雨が清浄なわけではない.多くのpH7付近の雨は,酸性化物質である硝酸や硫酸と,それを中和するアンモニアやカルシウムを含んでいる.

  • 湖沼の酸性化と被害
    湖沼が酸性化すると,pH5当たりから急速に魚類が減り出す.pHに敏感なプランクトン類や水生植物が影響をうけるためで,pH4.5より下がると卵が孵化しなくなり,成魚はエラを冒される.スウェーデンでは 85000ある湖沼の内,21500の湖沼が酸性雨による影響をうけている.カナダのオンタリオ州ではアメリカ国境に近い4000の湖沼が酸性化し,隣のケベック州でも 1300の湖沼が酸性化した.

  • 森林への被害
    酸性雨は,直接的に,葉の表面を保護しているクチクラのワックス層を破壊し気孔を痛め,光合成や呼吸を阻害する. 酸性雨の間接的な影響は土壌の変質である.土壌中の粘土はイオン交換性を持ち,粘土表面にH+ を吸着して,カルシウムイオンなどを溶かし出す.さらに,酸が加わると,アルミニウムイオン (Al3+) が溶出する.カルシウムやマグネシウムが洗い流されると,樹木が栄養不足になる.また,Al3+には毒性があり,0.1ppm以上になると根の先端が被害を受け,細胞分裂と成長が抑制される.

  • アジアの酸性雨
    中国で酸性雨は「空中死神」と呼ばれて恐れられている.特に,蘇州,広州,南昌,貴陽,重慶,貴州などでは,pH3〜4という酸性度の高い雨が測定されている.中国ではエネルギーの70%以上を石炭に依存しており,硫黄含量の高い石炭が火力発電所や各家庭の炊事や暖房に使われている.これが,中国全土で,年間 1500万トンのSO2を排出している. 中国の大気中の酸性ガスは,中国国内に留まらず,日本海を経てわが国まで越境汚染している.

  • 取り組み
    酸性雨の被害の広がりに,欧州各国は加盟国間の研究協力を目的に「長距離越境大気汚染条約」を1979年に採択した.その後,SO2 の削減に関しヘルシンキ議定書 (1985) が,NOx の削減についてはソフィア議定書 (1988) が締結されている.わが国では,季節風による中国大陸からの越境汚染があることから,東アジア地域における酸性雨物質排出の調査や,排煙中の脱硫,脱硝などの技術の普及を図る必要がある.こうした考えから,「東アジア酸性雨モニタリングネットワーク」を2000年から正式稼働する予定である.