サイエンスパートナーシッププログラム事業への参加



平成14年度サイエンスパートナーシッププログラム (以下 SPP)事業へ 参加しました。
今回は 県立福崎高校の理数コースの 1、2年生 30数名を 招いて、「数学入門」というタイトルで 計3回のプログラムを実施しました。 第1回目 松山先生による 「整数論への誘い」、第2回目 渡辺先生による 「三角形の重心は 本当に3中線の交点か?」に続いて、 第3回目を 濱中が担当しました。





濱中担当分:「多角形は切って、組み合わせると 必ず正方形にできる?」



前世紀の初め、ヒルベルトは面積という概念の根幹に関わる問題として つぎの問題を挙げています。

「高さと底面積の等しい三角錐の体積 が等しい事を 極限操作無しに示せるか?」

ヒルベルトという大数学者の割には、随分 卑近な問題だと思いませんか?

実際、小学校で 三角形の面積の求め方を習いますが、
それは 三角形を 分割して 組み合わせ直して 長方形にしたりすることによって 求めています。
つまり、 平面上の多角形の面積を求める際には 積分は必要ないことに気づきます。


それどころか
平面上の2つの多角形が等積ならば、
それぞれを パーツに分解し、 パーツ毎に合同とする ことが出来る
のです。

今回のプログラムでは 用意した正三角形や正五角形の厚紙を切って 繋げて 正方形にするという作業をしてもらいました。


正3角形を 切って繋げて出来た正方形


ところで、 先に挙げたヒルベルトの提唱した問題は 結局 否定的に解かれました。
つまり、 2つの立体は 体積が等しくても、
片方を分割して 繋げ直して 他方に移すことが
出来る時と、 出来ないときがあります


たとえば、どんなときが出来るのでしょう?
実は 底面が多角形の柱は 必ず 立方体にすることができます。
え、想像が つかない?そこで 今回は コンピュータグラフィックスを
使って、 斜めの三角柱を 立方体にする という映像を御覧頂きました。

:斜三角柱から立方体への変形を収めたAVIファイル



さて、一方、一般の三角錐は、分割して繋げ直して 直方体にすることが 絶対に出来ないことが知られています。 つまり、 平面のときとは違って、 三角錐の体積公式 を求めるには積分等の極限操作が 不可欠 なのです。


絶対に出来ないことを 証明するにはどうすれば いいのでしょう?

「3日、頑張ってみたけど、だめだった。不可能に違いない。」 ではだめです。
証明には、なりません。不可能性の証明の 方法の1つとして 不変量という概念があります。
今回のプログラムでは 最後に、不変量の概念を 紙と駒を使ったゲームを通して 理解してもらいました。




今回のプログラムでは 上記の数学の内容をテーマとし、次のような 授業、実習を行なった。

平面図形について:初めに、平面図形の面積という概念の基礎的性質を 確認したのちに、一般に等積な2つの多角形は 分割して繋げ直せば 一方から他方に移ることができることを講義した。 その後に、それらの一般論を用い、各自工夫することにより、 実際に 多角形の厚紙(正三角形と正五角形)を切り、 繋げなおして正方形にするという演習を通して 2次元の特殊性を理解するというプログラムを行なった。

3次元の図形について: 一方 3次元の図形については、分割して組み合わせることで 変形できることと、出来ないことが生じる。 可能な変形を説明するには、立体図形の切断、移動が必要で、 高度な3次元の空間図形の把握を要し、初学者には困難を伴う。 そこで、今回は 事前に 3次元のCGのアニメーションを大学の計算機を用いて 製作し、高校生にそれらの動画をみせながら 説明することにした。

不可能証明について: 3次元の図形では 平面の場合と異なり、分割組み合わせることでは 絶対に変形出来ない例がある。 実際、「正四面体を 分割、組み合わせることで 立方体にはできない」。 この事実の証明は難解であるので 今回の授業では 「不可能性の証明」という 通常 あまり高校におけるカリキュラムには登場しにくい 証明の方法論について、「不変量」という概念を説明し、 具体的な問題、手で触れるゲームを用いて 不変量の概念を 体験的に理解できるよう 努めた。